転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


117 ちょっとした疑問とくすんだ魔道具



 お兄ちゃんたちは狩ったジャイアントラビットを木に吊るした後、足の付け根とか首のところに切れ目を入れて血抜きを始めた。

 その光景を見てた僕は、ふとある疑問が浮かんだんだ。

「ディック兄ちゃん。ちょっと聞いていい?」

「ん、俺でも解る事か?」

「えっとねぇ、こんなとこで血抜きしても魔物は寄ってこないの?」

 確か草原で動物を狩って、それを餌に魔物をおびき寄せるっていう狩りをしてる人がいるんだよね? それなら、このジャイアントラビットの血の匂いでも寄ってきちゃうんじゃないかなぁ? って思ったんだ。

 ところが、お兄ちゃんが言うにはそんな事はまず無いんだって。

「この森には雑食の魔物はいても、肉食の魔物はいないんだよ」

 肉食の魔物は周りの弱い魔物を襲って食べる事があるけど、雑食の魔物は木の実とかも食べるからわざわざ危険を侵してまで魔物を襲う事は無いそうなんだ。

 それに魔物の血の匂いがするって事は、その魔物に怪我を負わせた相手がいるって事だよね。そんなのがいる可能性がある場所に雑食の魔物が寄って来る事は無いんだってさ。

「魔物は動物から変質するとかなり知能が上がるらしくてな、元の動物の頃よりも遥かに慎重になるんだ。それだけに、血抜きの最中に他の魔物に出くわす事は無いと思っていいんだぞ」

「ディック兄ちゃん。その言い方だと間違って覚えちゃうよ。いいかい、ルディーン。この森とかイーノックカウの近くの森ならディック兄ちゃんが言うとおり血抜きをしても大丈夫だ。だけど、肉食の魔物が多い場所では逆に絶対しちゃダメだぞ。特に狼みたいな群れを成す魔物がいる場所では、あっと言う間に囲まれちゃうからな」

 そっか。今の所、僕が行く可能性があるグランリルやイーノックカウの近くの森では大丈夫みたいだけど、遠くに行ったりして知らない場所で狩りをする事になったら気をつけなきゃいけないんだね。

「まぁ、その辺は近くの冒険者ギルドで聞けば教えてくれるそうだから、もし将来ルディーンが他の場所に行かなきゃいけなくなったら、狩りをする前にちゃんと聞くんだよ」

 その土地や狩場によっている魔物が違うから狩りに行く前に情報を集めるのはすっごく重要な事で、その情報は冒険者ギルドに行けばちゃんと教えてくれるから初めての場所に行った時は必ずギルドに顔を出さなきゃいけないんだってさ。

「後な、ルディーンは魔法で傷を治す事が出来るから特に気をつけなきゃいけないんだけど、もしパーティーメンバーが狩りの最中に大きな怪我を負った場合は、たとえ傷を魔法で完全に治したとしても、その場で血抜きをしないで倒した獲物を持ってすぐに森の出口まで移動するんだよ」

「なんで?」

 怪我が治ったのなら安全な場所まで帰る必要は無いよね? 

「さっきも言ったけど、雑食の魔物は魔物の血の匂いがしても寄って来る事は無い。だけど、人の血なら動物の血と同じで怪我をした餌がいるって魔物は考えるんだよ」

 テオドル兄ちゃんが言うには、大きな怪我をして多くの血を流しちゃうと、例えその傷をちゃんと治したとしてもその匂いを嗅ぎ付けた魔物が服とか鎧についた血の匂いを追って襲ってくる事があるんだって。

「狩りが終わった後はどうしても気が緩むから、そんな所に奇襲をかけられたら大変な事になるのは解るね? だから安全なところまで移動する必要があるんだ」

 そっか。森の外に出れば奇襲なんてかけれないし、何より見晴らしが居場所に人がいっぱいいたら自分の方が危ないからってあきらめちゃうだろうからね。

「近くに川でもあればそこで血を洗い流す事もできるし、そこを渡れば匂いを追う事はできなくなる。だけど、それでもやっぱり一度森の外に出た方がいいんだ。狩りと言うのは命がけでするものじゃなく、常に安全を確保して行う物だからね」

「うん、解ったよテオドル兄ちゃん。ディック兄ちゃんも、教えてくれてありがとう!」

 そうお礼を言う僕に、お兄ちゃんたちは笑いながら片手を上げて答えてくれたんだ。


 こんな話をしてるうちにジャイアントラビットの血抜きが終わった。とは言っても完全に血が抜けたわけじゃないよ。

 流石にそこまで待ってたらすっごく時間がかかっちゃうもん。でもある程度抜いてしまえばお肉が鉄くさくなるのは防げるし、なにより軽くなるから持って帰りやすくなるんだよね。

 ただジャイアントラビットは一角ウサギと違ってかなり大きいから、血を抜いて軽くなったと言ってもまだ50キロ近くある。内臓とかを捨てていけばもっと軽くなるんだけど、ちゃんと処理さえすればかなり美味しいからそんなもったいない事は出来ないんだよね。

 だから僕はこれからどうするんだろうって思いながら見てたんだけど、ディック兄ちゃんは木からジャイアントラビットを下ろすと、腰のポーチからなにやら紐のような物を取り出して後ろ足に括り付けたんだ。

 何をつけたのかなぁ? って覗き込むと、そこにあったのは前にイーノックカウでお父さんが買ってた獲物を軽くするタリスマンが付いたひもの魔道具だった。

 そっか、確かこれを使えば重さが10分の1になるはずだから、ジャイアントラビットでも簡単に運べるようになるね。

 でもさ、この魔道具についてるタリスマン、前にお父さんが買ったのに比べると色がくすんでない?

 そう思った僕はディック兄ちゃんに聞いてみたんだけど、そしたら買ってきた時よりは魔力の残量が少ないからだって教えてくれたんだ。


 どうやらこの魔道具、ひもの部分が周りから魔力を吸収する魔物の毛で出来てるらしくて、一度使っても置いておけば魔力が勝手にたまってまた使えるようになるんだって。

 でも流石に新品の時くらい魔力が溜まるまで置いとけないし、どの家にも同じ物が結構な数が買ってあるから、みんなその中から使える程度まで魔力が回復した物を選んで狩りに持って行くんだってさ。

 でも確かこの手のタイプの魔道具って少しずつ自然に魔力が回復させる事が出来るけど、魔法が使える人が自分の魔力を込めて使う事もできるって図書館の本に書いてあったよね? そう思った僕は、

「お兄ちゃん、ちょっと待って」

 軽くなったジャイアントラビットを運ぶ為に両足を縛ってたお兄ちゃんたちに、そう声をかけたんだ。

 だってこの魔道具、タリスマンが本当にくすんでるんだもん。

 使えるくらいに魔力が回復してるから持ってきてるんだとは思うけど、まだ狩りを始めたばっかりだし村に帰るまでに魔力が切れたら大変だもんね。

 だから僕は括り付けられた魔道具に近づくと、ひもの所を持ってそこから魔力を注入してみたんだ。そしたらあっと言う間に新品の時と同じくらいタリスマンのところが光を取り戻したんだよね。

「なるほど。自然に魔力がたまるのを待たなくても、ルディーンなら回復できるって訳か」

 ピカピカになったタリスマンを見て感心してるお兄ちゃんたち。そんな二人を見て嬉しくなった僕は、エッヘンと胸を張ったんだ。

「うん、そうだよ。でもこれ、多分僕だけじゃなくってキャリーナ姉ちゃんもできると思うんだけどなぁ」

 魔道具への供給は自分の魔力を動かせる人なら誰でもできるはずだから僕、お姉ちゃんでもできると思うんだよね。

 でも、もう近所の子達と狩りに行ってるはずのキャリーナ姉ちゃんからお兄ちゃんたちが話を聞いてない所を見ると、もしかしたらキャリーナ姉ちゃんはこの事を知らないのかもしれない。

 そんなの知ってるよ! って言われちゃうかもしれないけど、それでも僕は帰ったらちゃんとお姉ちゃんに教えてあげなくちゃって思ったんだ。 


 因みにこの日の夜から、狩りで使った魔道具は僕とキャリーナ姉ちゃんが寝る前に魔力を込める事になったんだ。

 ただね、一応司祭様に聞いてみたんだよ。また起こられちゃうかもしれないからね。

そしたら、やっぱりこれも自分のうちだけでやった方がいいって言われたんだってさ。

 司祭様曰く、

「流石に二人で村中の魔道具に魔力を込めるのは無理であろう?」

 確かに便利だからって、村中の人に頼まれても困っちゃうもんね。


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